孔版 こうはん

Stencil

孔版は、製版により版に孔(穴)を作り出して型とし、版上に置いたインクに圧をかける、版上からインクを押し付けるなどの行為により、版に開けられた孔を通して下に置いた支持体にインクを転写する版形式です。

孔版の主な技法として、金属製の枠にスクリーンを張ったものを版として用いて描画部分である孔部からインクを押し出すことで印刷するスクリーンプリント、型紙を用いて支持体に印刷するステンシル(合羽版)、蝋紙をヤスリの上で引っかくことで孔を作り出し、ローラーで印刷する謄写版(ガリ版)などがこの形式に属します。

孔版は印刷した作品の図像の左右が反転しないという点が、他の版形式である凸版、凹版、平版とは大きく異なる特徴です。そして孔版は他の版種と比べ、インクを支持体へ転写する際に高圧を加える必要がなく支持体を傷つけることなども少ないため、多くの版やインクを刷り重ねることができます。これにより重厚なペインティングのような凹凸のある画面をつくることも可能です。また、インクの種類は水性と油性がありますが、インクによる支持体の制約が少ないために、その印刷対象はとても広範囲にわたります。支持体には一般的に用いる紙の他、布、木、ガラス、金属などの様々な素材を用いることができて大量印刷が可能なことから、現在、孔版印刷は工業的、商業的にも改良され多くの分野で利用されています。

今から紀元前2万年程昔に、アボリジニは洞窟の岩壁に手を型(版)としたステンシルを思わせる方法を用いて葦の茎で色料を塗布した壁画を残しています。インドでは2千年以上前に布を染めるための陶器の型が存在したと言われ、日本でも同様に染物の分野で紙を型として使う紅型(びんがた)が存在しています。このように、孔版の原理は古くからそのアイデアが実践されてきたことがわかります。19世紀に入りフランスやドイツでスクリーン印刷が考案され、20世紀にはイギリスでスクリーンプリントの技術が開発され、その後この技法はアメリカで商業的な発展を遂げることとなります。1930年代後半になると美術作品の制作にスクリーンプリントが用いられ、1940年代には、第二次世界大戦の影響で写真製版法の技術も発達することとなりました。またこの頃から、スクリーンプリントによる美術作品はセリグラフィとも呼ばれるようになったことで工業的印刷と分類され、数多くの美術作品が制作されるようになりました。

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参考文献
・「版画」武蔵野美術大学油絵学科版画研究室/編 武蔵野美術大学出版局 2002年
・「版画事典」室伏哲郎/著 東京書籍 1985年
・「事典プリンツ21」 室伏哲郎/著 プリンツ21 1997年
・「版画の技法と表現」町田市立国際版画美術館/編 1987年
・「世界版画史」青木茂/監 美術出版社 2001年
・「版画 進化する技法と表現」佐川美智子/監 岡部万穂/編 文遊社 2007年

監修
渡邊 洋 通信教育課程油絵学科非常勤講師

作成日・改訂
2009年02月20日作成