水彩画用筆 すいさいがようふで

Watercolor Brushes

水彩画用筆は、水分量により多様な表情を見せる水彩絵具の特性を、最大限に活かして描くことができる描画材です。穂先には、水分の含みがよく、柔軟性と適度なコシを持った獣毛が主に用いられ、形状やサイズも多種であることから、様々な描線や塗りが可能です。

筆の穂先に使用される毛には硬毛と軟毛があり、水彩画用筆では主に軟毛が用いられます。軟毛の筆は、その柔らかさによって水分との馴染みや含みが良いことから、微妙な濃淡や流動性を活かした描画、筆跡の目立たない塗りなどの表現効果を容易にします。水彩画用筆に用いる軟毛の材質には、セーブル(テンなどのイタチ科の動物)、リス、馬、狸、羊などの獣毛と、ナイロンなどの合成繊維があります。特にセーブル毛の中で、コリンスキーと呼ばれるシベリアから中国東北部に生息するテンの毛は、毛の形状が紡錘形をしていて、柔軟で穂先のまとまりや絵具の含みが優れていることから、最高級の筆になります。逆に、安価な筆として、ナイロンなどの合成繊維毛を利用した穂先があり、アクリル絵具にも適しています。合成繊維に凹凸などの特殊加工や、獣毛を混合するなどして、より獣毛のみの筆に近い柔軟性や絵具の含みを再現したもの(リセーブル筆など)もあります。また、強めのコシや弾力を利用して描く際は、硬毛である豚毛の筆などが最適です。

筆の穂先には、様々なサイズ(大きくなるにつれ号数は上がる)と、丸筆や平筆などの形状が異なるものがあります。特に丸筆は水彩画で多く利用され、絵具の含みがよく、筆運びがしやすいため、伸びがあり流れるような線を描くことができます。また、穂先が細いものは、繊細な線や細密な描画に適しています。一方、平筆は、比較的広い面を均一に塗る際や、エッジを使ったシャープな輪郭を持つ塗りなどができます。その他の筆として、平筆よりも広い面を塗る際に便利な平刷毛や、日本画の制作で用いられる面相筆、彩色筆、絵刷毛なども水彩画で利用できます。

新しい筆を使用する際は、筆先が糊などで固めてあるので、水に浸けて十分に糊を取り除いてから使用しましょう。また、筆の使用後は、水やぬるま湯で、丁寧に穂先の根本に残った絵具までしっかり取り除き、穂先を整えて自然乾燥させましょう。獣毛の筆などには、専用のクリーナーやリンスなどで手入れをすることで、長持ちさせることができます。
水彩画用筆は、一般的な画材店で購入できます。

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参考文献
・「画材の博物誌」森田恒之著 中央公論美術出版
・「水彩 新しい画材ガイド」美術手帖増刊号編集部編/編 美術出版社 1994年
・「絵画技術全書」クルト・ヴェールテ著 美術出版社
・「図画工作・美術科 重要用語300の基礎知識」若元澄男/編著 明治図書 2000年
・「絵画表現のしくみ 技法と画材の小百科」美術出版社 2000年
・「日本大百科全書」小学館 1994年
・「絵画材料事典」R・J・ゲッテンス・G・L・スタウト/著 森田恒之/訳 美術出版社 1999年
・「絵画の教科書」谷川渥/監 小澤基弘・渡邊晃一/編 日本文教出版 2001年

監修
堀内貞明 通信教育課程油絵学科教授

作成日・改訂
2009年04月28日作成

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