揮発性油 きはつせいゆ

Essential Oils

揮発性油とは、油絵を制作する際に用いられるテレピンやペトロールなどの画溶液(溶き油)のことで、油絵具の粘性や濃度の調整、乾燥の促進、乾性油の希釈、さらに樹脂などを溶解する力があるため、ワニスを自作するときの溶剤としても用いられます。

揮発性油は常温で多くの成分が気化するため、乾燥しても乾性油のように皮膜を形成したり固化することはなく、油自体に体質を持たないのが特徴です。
揮発性油には、植物性の原料から精製したテレピン(原料:松脂)や、スパイクラベンダーオイル(原料:ラベンダー)、石油を蒸留した鉱物性のペトロールなどがあります。
テレピンは、これらの揮発性油の中でもっとも揮発度が高いため乾燥も早く、溶解力も適度に持っています。ただし、保管状況により酸化して不揮発性の樹脂質を生成することがあります。ペトロールは、鉱物性なので樹脂化することがなく比較的安定した状態を保ちます。ただし、揮発度や溶解度はテレピンよりもやや劣ります。そのため、樹脂を溶かす溶剤として利用した時に、完全に溶かしきれない場合があります。スパイクラベンダーオイル(別名:アスピックオイル)は、溶解力に優れ、ラベンダーを原料としていることから独特の芳香を持っているのが特徴です。ただし、揮発度が低いことや酸化の影響を受けやすく樹脂化の心配があります。また、他の乾性油に比べ価格も高価です。

使用上の注意として、揮発性油には絵具を支持体に固着させる成分が含まれないため、多用すると絵具の耐久性や固着力が低下したり、油彩画特有の艶などを損なう恐れがあります。揮発性油をそのまま使用するのは制作の初段階(下書きなど)のみにし、描画の際は、基本的にはリンシードなどの乾性油と混ぜて使用します。描き始めは揮発性油の量を多く乾性油を少なめの混合比にし、仕上げに向けて徐々に乾性油の割合を増やして使いましょう。
使用環境は、可燃性や中毒性が高いため室内の換気を良くし、火気のある場所での使用は避けるなどの注意が必要です。

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参考文献
・「絵具の辞典」ホルベイン工業技術部/編 中央公論美術出版 1996年
・「絵具の科学」ホルベイン工業技術部/編 中央公論美術出版 1994年
・「画材の博物誌」森田恒之/著 中央公論美術出版 1994年
・「絵画表現のしくみ 技法と画材の小百科」美術出版社 2000年
・「絵画技術全書」クルト・ヴェールテ/著 佐藤一郎/監 美術出版社 1994年
・「絵画 材料と表現」美術手帖増刊号編集部編/編 美術出版社 1981年
・「ホルベイン画溶液解説書」ホルベイン工業株式会社 2001年

監修
堀内貞明 通信教育課程油絵学科教授
島眞一  通信教育課程油絵学科教授

作成日・改訂
2007年10月12日作成

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  • 画溶液による絵具の〈のび〉と〈つや〉の変化

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