美濃紙ができるまで 9
9.紙漉き(かみすき)
9-2.紙を漉く
桁(けた)という持ち手の付いた木枠のようなものに簀(す)を挟み、漉舟の中の紙料をすくいます。紙の漉き方には、「溜め漉き」「流し漉き」など地域や紙の種類により様々な方法がありますが、美濃紙は「流し漉き」で多く漉かれています。
「流し漉き」の手順
漉き始めは「化粧水(けしょうみず)」と呼ばれる、紙の表面部分を形成する工程から行います。桁の手前の縁より紙料を含んだ水をすくい上げ、奥の縁に向けて簀の上を滑らせるように流し入れ、そのまま縁から払い出し、残りの水を手前の縁にもどしチリやゴミを流し落します。この時にチリやゴミなどがある場合は、しっかりと取り除きます。
次に、何度か紙料を汲み入れ桁を揺り動かすことで紙に厚みを加えていく「調子」という漉き工程ですが、この工程こそが美濃紙の制作におけるもっとも特徴的な部分になります。一般的な手漉き和紙の製法では、漉桁を前後にのみ揺り動かすことで漉き上げていく「縦揺り」と呼ばれる方法が多いようですが、美濃紙の場合は、「縦揺り」に加え左右にも揺り動かす「横揺り」も行っています。「横揺り」を加えることで繊維の絡みが強固になるため、縦だけでなく横からの張力にも耐久性が上がります。
最後に紙の裏面を形成する「払い水(はらいみず)」と呼ばれる漉き工程を行います。これは、最初に行った「化粧水」と同様に水を含んだ紙料をすくい上げ、漉いた紙の上を滑らせるように流し入れ、一度で縁から払い出します。
【 道具・材料解説 】
簀(す):節の間隔が長い竹を細かく割って竹ひごにし、絹糸で編み連ねた簾(すだれ)のようなもので、大きさは紙の種類などにより様々なものがあります。桁(けた)と言われるフレーム状の枠に固定し、何度か漉舟の水にくぐらせ紙料をすくうことで、簀の上に紙を形成していきます。簀は、非常に細く繊細な竹ひごを継いで作られていて、その継ぎ目は出来上がった紙の表情に影響するため、ズレ無く、目立たないように継いでいく必要があります。そのために、専門技術を有する簀編み職人がいるのですが、現在ではその人数が減ってしまい、今後が心配されています。
桁(けた):簀(す)と呼ばれる簾(すだれ)状のものを、上下で分割するフレーム状の木枠(木曽檜)で挟んで固定する道具で、両端より少し内側部分にある持ち手を両手で掴み、前後や左右に揺らしながら漉舟の水にくぐらせ紙料をすくうことで紙を形成していきます。下段の木枠には、簀が載るため数本の梁のようなものが平行に渡してあるのですが、その梁の上にはさらにアーチ状の金属線が這わせてあり、側面から見ると桁の中心部分になるほどやや高くなっています。これは、桁に水を含んだときに、簀の面が重さでたわんでも水平を維持するための工夫だそうです。また、天井には複数の竹竿が平行に設置してあり、その竿先から糸で桁は吊されているので糸のテンションにより、操作しやすく、腕への負担を軽減させるなどの工夫もされています。