墨 すみ
Inksticks (Sumi)
墨(すみ)は、油や松を燃やして採取した煤(すす)を膠(にかわ)で練り固めて乾燥したもので、水とともに硯(すずり)ですり下ろした状態のものを色材として用います。「墨に五彩あり」とも言われるように、黒の中にも多彩な色味があります。
墨は古代中国で発達し、推古天皇の時代に高句麗から日本へと伝えられました。日本製の墨を和墨(わぼく)、中国製の墨を唐墨(とうぼく)と言います。気候風土の違いから特徴が異なり、和墨は膠が多く滲みにくく、唐墨は膠が少ないため滲みが強く伸びがあります。
墨の原料は、大別すると油煙と松煙があります。油煙墨(ゆえんぼく)は菜種油、桐油、胡麻油等の植物油の煤で作った墨で、淡墨にすると茶味を帯びているため「茶墨」とも言います。炭素の粒子が非常に小さいので、墨色に艶があり、純度があります。墨が古くなっても色の変化はほとんどありません。松煙墨(しょうえんぼく)は松の木の煤を固めて作った墨です。青味を帯びているため「青墨(せいぼく)」とも言います。粒子は粗く、不均一です。墨色は艶がなく、時間の経過により色が青黒化します。ただし現代では、油煙墨に藍の染料を加えた青墨、石油を原料としたものもあり、必ずしも油煙墨が茶墨、松煙墨が青墨とは限りません。他には、煤の代わりに顔料や染料を原料とした「彩墨(さいぼく)」があります。
墨の製造は膠の腐りにくい冬期に行われます。主成分である煤と膠、香料や染料等を合わせ、手足を使って光沢が出るまで練り上げた後、木型に入れて成型し、短いもので半月から三ヶ月、長いものは数年かけて乾燥させます。最後に表面を蛤で磨いて完成させます。
墨は、粒子をきめ細かくして発色を良くするため、力を入れずにゆっくりすり下ろします。すった墨を硯から絵皿に移して、濃度の調節は濃い墨に水を加えて行います。墨はその日にすり下ろしたものを使用して、乾燥した後の墨は使用しないように注意します。使用後は、墨に付いた水分をきれいに拭き取り、ひび割れやカビを防ぐために購入時に入っていた箱に納めて、気温の変化や湿気の少ない場所で保管しましょう。
また、する手間を省くための墨汁(ぼくじゅう)も市販されています。墨汁は膠が少なくて防腐剤が入っています。
墨は、日本画や書道を扱う画材店の他に、一般的な画材店でも購入できます。
参考文献
・「日本画 表現と技法」 武蔵野美術大学日本画学科研究室/編 武蔵野美術大学出版局 2002年
・「彩 ウエマツ日本画総合カタログ」ウエマツ画材店
・「図解 日本画用語事典」東京芸術大学大学院文化財保存学日本画研究室/編 東京美術 2002年
・「初心者のための水墨画?基礎から応用まで100題」 斉藤南北/著 日貿出版社 1987年
・「初級技法講座 書道 用具と使い方」 秋元梢風/著 美術出版社 1995年
・「The墨 墨は生きている」 松井茂雄/著 日貿出版社 1983年
・「墨と色材の知識」 宮坂和雄/著 木耳社 1972年
・「ブリタニカ国際大百科事典 小項目電子辞書版」 ブリタニカ・ジャパン 2004年
参考ウェブサイト
・奈良製墨協同組合
・株式会社古梅園
・株式会社墨運堂
・墨工房 紀州松煙
監修
重政啓治 通信教育課程油絵学科教授
作成日・改訂
2009年02月23日作成