礬水刷毛 どうさばけ
Dosa Sizing Brush
礬水刷毛(どうさばけ)は、日本画の準備・制作において礬水液(どうさえき)を塗布する際に用いる刷毛です。主に支持体である和紙や絵絹のにじみ止めを目的とした礬水を引くこと(礬水引き)や箔押しの際に利用します。
礬水刷毛の幅は一寸(約3cm)から七寸(約21cm)程度のものまであります。毛は含みが良く柔らかな純羊毛製、柄は白木製に縁の部分は耐水用塗料のラッカー仕上げをしてあるものが一般的です。このラッカー仕上げは明礬(みょうばん)を湯で洗い流す作業で柄の割れを防ぎます。ちなみに良い刷毛の条件は、液の含みや下り(おり)が良く、たっぷりと液を含ませて塗った時に毛先が割れずムラなく塗れることです。
礬水引きする際は、刷毛のかすれや液の溜りがでないように、礬水液を均等な量で塗ります。刷毛にたっぷり液を含ませて、塗り始めは刷毛を寝かせた状態で持ち、ゆっくりと横に動かしながら徐々に刷毛を起こします。そうすることで液の下りを一定にすることができます。刷毛跡は重なる部分が多くなく、また隙間ができないようにします。このとき礬水液にムラがあると、絵具がにじみ、均一な発色が得られない場合があるので気をつけましょう。金箔や銀箔などの箔押しの際は、礬水液または膠水(にかわすい)が箔を画面に定着する役割をします。また箔を押した上に礬水液を引くことで絵具の定着を良くし、銀箔、銀泥の酸化を防ぎます。
取り扱いの注意として、日本画の刷毛には用途により様々な種類があり、礬水刷毛のほかに、水刷毛(みずばけ)、絵刷毛(えばけ)、唐刷毛(からばけ)などがあります。使用したこれらの刷毛の毛には異なる成分や絵具が付着しているため、必ず使い分けましょう。礬水液に含まれる明礬は、絵具をはじく性質があり、刷毛を共用すると絵具ののりが悪くなります。また、礬水刷毛は使い込むうちに、礬水液に含まれる明礬の影響で毛が劣化し、毛先が割れる恐れがあります。使用後は水で洗い、さらにぬるま湯でよく洗って礬水液の成分を完全に取り除き、水分を切って、直射日光の当たらない風通しの良い場所に吊るして乾かしましょう。礬水刷毛は、日本画の用具や材料を取り扱う画材店で購入できます。
関連科目
参考文献
・「日本画 表現と技法」 武蔵野美術大学日本画学科研究室/編 武蔵野美術大学出版局 2002年
・「図解 日本画用語事典」東京藝術大学大学院文化財保存学日本画研究室/編 東京美術 2007年
・「画材と素材の引き出し博物館」 目黒区美術館/編 中央公論美術出版 1995年
・「新技法シリーズ 日本画の表現技法」 石踊紘一、高嵜三朗/著 美術出版社 1978年
監修
重政啓治 通信教育課程油絵学科教授
作成日・改訂
2008年10月23日作成