水彩絵具 すいさいえのぐ
Watercolor Paint
水彩絵具は、主に顔料とそれを支持体に定着させるアラビアゴムなどを練り合わせて作られた水溶性の絵具で、被覆性の異なる透明水彩絵具と不透明水彩絵具(ガッシュ)があります。絵具に加える水の加減により、にじみや濃淡、流動性などの特徴的な表現が可能です。
水彩絵具の成分を「顔料」「主媒剤(展色剤)」「助剤」に大別すると、顔料は日本画や油絵の絵具と同様に、鉱石や土、色素などを材料とし、特に極微粒子にしたものを利用しています。顔料を定着させる主媒剤は、水溶性のアラビアゴム樹脂を用いています。水分が蒸発して固化するため、絵具の容積や色調が変わる場合があります。助材には、絵具に保水性や滑らかさを与えるグリセリンや、防カビ成分などを含んでいます。そして、これらの成分の配合率によって水彩絵具は「透明」「不透明」に分けられます。透明水彩絵具は、顔料密度を抑えて透明度を上げるためや、多量の水を含めても顔料が定着するように、アラビアゴムを増量しています。不透明水彩絵具は、重ね塗りによる隠蔽力を高めるために、顔料を増やしアラビアゴムの量を減らしていて、また、水を加えなくてもノビがあり、厚塗りできるように、湿潤剤や増粘剤を加えています。絵具の市販形態には、チューブ入りの軟練りタイプと、水分で溶かしながら使用する固形タイプがあります。
基本的な使い方として、透明水彩絵具は、紙の白さが持つ明度を利用し、水で溶いた絵具の塗り重ね具合で濃淡をつくり描きます。不透明水彩絵具は、白色絵具を他の絵具に混ぜる量により明度や濃淡を変化させて描きます。また、水彩絵具は支持体の紙と密接な関係があり、紙面の厚さや凹凸、吸収性などにより描画効果は大きく異なります。
水性の主媒剤を用いて顔料を定着させる方法は、テンペラ、フレスコ、水墨画、大和絵など古来からあり、また、水彩絵具に近いものは、15世紀のアルブレヒト・デューラーの作品などでも確認できます。しかし、現在のような水彩絵具と呼ばれるものは1790年代のイギリスで生まれ、工業化の進む当時に石けん工業の副産物としてグリセリンが発見されたことなどが深く関わっています。
取扱いの注意として、固化した絵具に水を加えると再溶解するため、過度な重ね塗りは、下の色が溶け出し濁りの原因になります。しかし、その特性により、パレットに残った軟練り絵具はそのまま乾燥させることで、固形絵具の様に使用できます。
参考文献
・「画材の博物誌」森田恒之著 中央公論美術出版
・「水彩 新しい画材ガイド」美術手帖増刊号編集部編/編 美術出版社 1994年
・「絵画技術全書」クルト・ヴェールテ著 美術出版社
・「図画工作・美術科 重要用語300の基礎知識」若元澄男/編著 明治図書 2000年
・「絵画表現のしくみ 技法と画材の小百科」美術出版社 2000年
・「日本大百科全書」小学館 1994年
・「絵画材料事典」R・J・ゲッテンス・G・L・スタウト/著 森田恒之/訳 美術出版社 1999年
・「絵画の教科書」谷川渥/監 小澤基弘・渡邊晃一/編 日本文教出版 2001年
参考ウェブサイト
・「2002-2006年 造形ファイル」 武蔵野美術大学
・ホルベイン工業株式会社
監修
堀内貞明 通信教育課程油絵学科教授
作成日・改訂
2009年06月27日作成