木口木版 こぐちもくはん
Wood Engraving
木口木版は、木を輪切りに切り出した表面が硬質な木口板を版木として使用し、ビュランを用いて彫ることで、精密で繊細な表現ができる木版画です。
木口木版は西洋木版とも呼ばれ、18世紀末にイギリスのビウイックが発明し、平圧プレス機で活字と同時に印刷できることからヨーロッパでは書籍の挿絵として発展することになりました。
版木として使用される木材は、板目の版木よりも硬質で、目が詰っていて密度のある黄楊(ツゲ)や椿、梨、楓などの硬い木材が用いられます。しかし、これらの木材は生産量が少ないことや、木の太さのサイズまでしかとれないことなどから、四角く裁断した木口を接着した寄木の版木も作られています。
木口木版は、彫る前に版木の表面を研磨する必要があります。研磨には耐水性サンドペーパーを使用し、60番程度の粗目のものを使用して表面の傷や切断の跡がなくなるまで削り、次第に番目をあげながら、1500番程度で光沢が出るように仕上げます(鏡面仕上げ)。画材店で購入した版木を用いる場合、ある程度の研磨処理がしてあるものは、240番程度の中目のものから研磨を始めるとよいでしょう。研磨が終わったら、ウエスを使い版面に墨汁を塗布して彫った線を判りやすくします。
彫りには、刃の先端が斜めに切り落とされたビュランと呼ばれる道具を使用します。ビュランは、全体を握り込むように持ち、前方に押し進めながら彫っていきます。ビュランは直進の彫りしかできないため、曲線を彫る場合、版を回転させることができるクッサンと呼ばれる革製の台を使用する場合もあります。
印刷には、リトグラフ用と銅版画用のインクを混合して使用します。混合したインクが軟らかい場合、彫った溝にインクが詰まってしまうために少し硬めに調整すると良いでしょう。インクはハンドローラーを使用して、版面に均一にのせるようにします。摺りに用いる紙は雁皮紙などの薄く丈夫な紙を使用します。摺りには、バレンを用いますが、バレンだけで細かい部分が摺ることができない場合には、バニッシャーやスプーンなどの曲面を持つ道具を使用し、擦るようにして摺ると良いでしょう。摺りあがった雁皮紙は、乾燥させた後補強のため洋紙に貼り込みます(裏打ち)。印刷後の版木は、クラフトテープやプラスチック消しゴムなどを使用して残ったインクを落とした後、版面に傷が付かないように表面を保護して、湿度の高い場所を避けて保管しましょう。
関連科目
参考文献
・「版画」武蔵野美術大学油絵学科版画研究室/編 武蔵野美術大学出版局 2002年
・「版画事典」室伏哲郎/著 東京書籍 1985年
・「版画 進化する技法と表現」佐川美智子/監 岡部万穂/編 文遊社 2007年
・「版画の技法と表現」町田市立国際版画美術館/編 1987年
監修
塙太久馬 通信教育課程油絵学科非常勤講師
作成日・改訂
2009年07月04日作成