拓刷り(拓摺り) たくずり

Takuzuri Rubbing

拓刷り(拓摺り)は、凸版技法の一つで、版となる印刻されたものや凹凸のあるものに紙をあて、その上から描画材を直接押し当てることで、版となる素材の凸部の文様や図柄を写し取る摺刷方法です。

拓刷りの歴史は古く、石碑に刻まれた経典の文字や、木材や金属、土器などから凸部の形状を紙に転写したもの、または転写したものを本とした拓本と呼ばれるものが古くから存在しており、拓刷りはこの拓本を版画に応用したものといえるでしょう。
通常版画における平版、凸版、凹版、孔版などの版種は、版面に直接インクをつけ、圧力を加えることによって紙に転写しますが、拓刷りは、版面に直接インクをつけることはせずに、版に押し当てた紙に描画材を押し付けるため、図像が反転しないという特徴を持っています。
拓刷りには、乾式(乾拓)と湿式(湿拓)二つの方法があります。乾式はフロッタージュとも呼ばれ、乾いた紙を版に当てて上から描画材で擦ることで凸部の文様や図柄を紙に写し取ります。使用する紙の厚さや種類、また使用する描画材により写し取られる調子や表情が変わるために、同じ版であっても様々な表現が可能です。一方、湿式による拓刷りは、対象となる版に霧吹きなどを用いて水分を与え、あらかじめ湿らせた紙を版の凹凸に密着させます。そこに、たんぽ(布を丸めた道具)と呼ばれる道具に墨汁や油性インクをつけ、叩くように押し付けることで凸部の文様や図柄を写し取ります。湿式で使用する紙は、厚すぎると対象に密着させづらいため、薄めの和紙を用いると良いでしょう。また紙へ与える水分が多いと破れてしまい、少ないと密着しないために適度な水加減が必要となります。
拓刷りはその技法の特徴から、版の形状が直接図像となって表現されるために、版となる対象物を選ぶ行為がとても重要となります。拓刷りは、同じ対象物に対して様々な描画材を使用し、繰り返し刷ることで重なったパターンを利用して複雑な表現を行ったり、刷ったものをコラージュの素材としたり、版画の原稿として使用するなど、その使用方法は多岐にわたります。

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参考文献
・「版画事典」室伏哲郎/著 東京書籍 1985年
・「版画」武蔵野美術大学油絵学科版画研究室/編 武蔵野美術大学出版局 2002年

監修
永井研治 通信教育課程油絵学科教授

作成日・改訂
2008年09月10日作成