和紙 わし
Washi
和紙は、日本で古くから各分野で利用され、生活の中ではなくてはならない紙で、独自の原料・製法により発展してきた紙の総称です。現在も日本各地で様々な種類の和紙が手漉きにより生産され、日本画や版画、デザインなどの造形素材としてや、障子や襖などの生活用品まで幅広く利用されています。
和紙は、主に楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・雁皮(がんぴ)の樹皮、長くしなやかな靱皮繊維(じんぴせんい)を原料としています。主な製造工程としては、原料を蒸して樹皮を剥ぎ、水に晒して煮た後、繊維を叩解(こうかい)して細かくほぐしていきます。こうしてできた紙料(しりょう)と、黄蜀葵(とろろあおい)の根などから抽出した粘液「ねり」を水の中で混合します。「ねり」は紙料が水中で固まらず程良く分散させる役割をし、その水を漉き桁(すきけた)と呼ばれる道具ですくい上げ、前後(美濃紙は前後左右)に揺らしながら紙を漉き上げます。この方法は日本独自の製法として「流し漉き」と呼ばれます。漉いた紙は水分を含んでいるため、木板に張り付け自然乾燥させた後、完成します。和紙が強く美しく仕上がる理由には、「ねり」と「流し漉き」の開発、特に漉き手の技術が優先され、繊維が均一にしっかりと絡み合った紙の構造になります。
後漢時代(105年)の中国で、蔡倫(さいりん)が手漉きによる製紙法を大成し、その後、中央アジアや中東を経てヨーロッパへ伝播した一方、朝鮮半島を経て飛鳥時代に日本へ伝わったものが和紙のルーツとなります。現存する最古の和紙は、正倉院に保管されている戸籍を書き記した帳簿に用いられた紙で、約1300年前の702年(大宝2年)大宝律令が施行された頃のものと言われています。大量生産される洋紙に比べ、手漉きの和紙は生産量に限界がありますが、その耐久性や保存性は、他に類を見ません。ちなみに、和紙という名称は、明治時代に日本に輸入された紙を「洋紙」と呼んだことに対し、古来から伝わる国産紙の名称として付けられました。
造形分野での主な和紙の利用法は、日本画制作の支持体やその補強のための裏打ち用紙、版画の刷りに用いる紙や作品の保存用紙、デザインの分野では、照明やインテリア、書物の装丁、ファッションなど様々な物の材料となり、その他に書や表具、絵画修復などにも利用されるなど、造形表現と密接に関わった素材となっています。
和紙は、和紙専門店や画材店などで購入できます。
参考文献
・「日本画 表現と技法」武蔵野美術大学日本画研究室/編 武蔵野美術大学出版局 2002年
・「版画」武蔵野美術大学版画研究室/編 武蔵野美術大学出版局 2002年
・「紙の大百科」美術出版社 2001年
・「美濃紙の伝統」久米康生/著 美濃市役所/編 美濃市役所 1994年
・「美濃紙マニュアル vol.3 美濃紙入門」美濃紙を愛する会 2004年
・「日本画用語辞典」東京藝術大学大学院文化財保存学日本画研究室/編 東京美術 2007年
・「日本画の伝統と継承 素材・模写・修復」東京藝術大学大学院文化財保存学日本画研究室/編 東京美術 2002年
参考ウェブサイト
・全国手漉き和紙連合会
・造形ファイル特集サイト「美濃紙の里をたずねて」
監修
重政啓治 通信教育課程油絵学科教授
作成日・改訂
2009年07月11日作成