乾性油 かんせいゆ
Drying Oils
乾性油とは、油絵を制作する際に用いられるリンシードオイルやポピーオイルなどの画溶液(溶き油)のことで、絵具の練り調子やノビをよくすると共に顔料と支持体の定着を強め、油絵特有の艶や透明感を与えます。また、油絵具の中に、顔料を画面に固着させる成分(主媒材)として練り込まれています。
乾性油は空気中の酸素を取り込み反応することで、皮膜を形成し固化します。揮発性油のように蒸発するわけではないので、乾燥後体積が減り、絵具が痩せることはありません。油絵具の乾燥が遅いのはこの乾性油が非常にゆっくりと酸素と結合するためで、完全に反応がとまるのは30年ぐらいかかるともいわれています。
乾性油は、植物の種子や実などの原料を精製して作られています。亜麻を原料としたリンシードオイルは、乾燥速度が速いが黄変が強く、芥子(けし)からできているポピーオイルは、黄変は少ないが乾燥が遅いなどの特徴があります。その他にも、サフラワーオイル(原料:紅花)、ウォルナッツオイル(原料:胡桃)などがあり、それぞれ異なる乾燥速度や黄変度、皮膜の硬度を持っています。また、乾性油には生油と加工油の2種類あり、生油は前述したように原料より搾油し精製されてできたオイルで、加工油は生油に人為的な加工をしたオイルをいいます。具体的な加工例としては、生油を太陽と空気に長い間晒(さら)す加工法である「サンブリーチド」、生油を空気に晒すことなく加熱する加工法の「スタンド」、空気に晒しながら加熱して加工する「ボイルド」などがあり、それぞれの加工法により生油と異なる性質・特徴に変化します。
使用上の注意として、基本的にはテレピンなどの揮発性油と混ぜて用います。描き始めでは、揮発性油の量を多めで乾性油は少なめの混合比にし、仕上げに向けて徐々に乾性油の割合を増やしていきます。また使用時は、油壺などに適切な分量で混合した溶液をあらかじめ作ってから用いましょう。
参考文献
・「絵具の辞典」ホルベイン工業技術部/編 中央公論美術出版 1996年
・「絵具の科学」ホルベイン工業技術部/編 中央公論美術出版 1994年
・「画材の博物誌」森田恒之/著 中央公論美術出版 1994年
・「絵画表現のしくみ 技法と画材の小百科」美術出版社 2000年
・「絵画技術全書」クルト・ヴェールテ/著 佐藤一郎/監 美術出版社 1994年
・「絵画 材料と表現」美術手帖増刊号編集部編/編 美術出版社 1981年
・「ホルベイン画溶液解説書」ホルベイン工業株式会社 2001年
監修
堀内貞明 通信教育課程油絵学科教授
島眞一 通信教育課程油絵学科教授
作成日・改訂
2007年10月12日作成