鉛筆 えんぴつ
Pencils
鉛筆は、主原料の黒煙と粘土を混合し、細い棒状に焼き固めた芯を、木材の軸に納めた描画材です。日常の筆記をはじめ、デッサンやクロッキー、製図など多岐に渡り利用されています
鉛筆の特徴としては、やや金属的な光沢を含む黒色の描線で、色材が比較的硬質なため、筆触は滑るようになめらかで、筆圧の加減による濃淡の調節が容易です。また、様々な種類の芯の硬さがあり、描線の濃度に大きく影響します。鉛筆の芯は、黒鉛と粘土に水を加えながら混合・粉砕し、細い棒状に成型して乾燥させた後、約1000度で焼成し、熱した油を浸透させて作られています。その際の黒鉛と粘土の混合量により芯の硬度が決まり、アルファベットと数字で硬度を分類しています。Hは「Hard」の頭文字で、芯が硬く淡い色味が特徴です。H~10Hと数字が大きくなると硬度が増します。B「Black」は芯が柔らかく濃い色味を持ち、B~10Bと数字が大きくなると芯は柔らかくなります。HBはHとBの中間の硬度や色味を持ち、F「Firm(丈夫な)」は、HBとHの中間の質を持ちます。他にコンテに近い色味を持つEB「Extra Black」やEE「Extra Extra black」があります。
デッサンで鉛筆を使用する際は、先端を筆記時に用いる場合よりも、芯部と木部を大きく削り出して鋭利にします。これはシャープな線描ができるとともに、鉛筆を寝かせ、芯の側面部により、幅のある塗りを容易にするためです。描き始めは大きなストロークで肩を支点に腕を動かす意識で描き、完成に近づくほど、肘や手首へと支点を移して描き込んでいきます。鉛筆による描画は、基本的には無数の「線」の積み重ねにより、濃淡や調子を作っていきますが、消しゴムや練り消しゴムなどの併用で、より繊細で複雑な描画効果を得ることができます。
古代より金、銀、銅、鉛などを用いた描画材(メタルポイント)は利用されていましたが、1564年にイギリスのボロウデール鉱山で黒鉛が発見され、1795年にフランス人のニコラ・ジャック・コンテにより、今日の鉛筆製法の基礎が発明されたことで、扱いやすく変色の少ない描画材として各国へ広まりました。日本では江戸初期に徳川家康への献上物として伝わり、「木筆」と呼ばれ、国内では1889年に生産されるようになりました。
鉛筆には色材を支持体に定着させる成分が含まれていないため、描画部分の色材が取れ易い状態になります。完成後はフィクサチーフでの定着をお奨めします。
鉛筆は、画材店や文具店で購入できます。
関連科目
参考文献
・「画材の博物誌」森田恒之著 中央公論美術出版
・「絵画技術全書」クルト・ヴェールテ著 美術出版社
・「図画工作・美術科 重要用語300の基礎知識」若元澄男/編著 明治図書 2000年
・「絵画表現のしくみ 技法と画材の小百科」美術出版社 2000年
・「絵画材料事典」R・J・ゲッテンス・G・L・スタウト/著 森田恒之/訳 美術出版社 1999年
・「日本大百科全書」小学館 1994年
・「絵画の教科書」谷川渥/監 小澤基弘・渡邊晃一/編 日本文教出版 2001年
・「画材と素材の引き出し博物館」目黒美術館/編 中央公論美術出版 1995年
・「岩波西洋美術用語辞典」岩波書店 2005年
監修
堀内貞明 通信教育課程油絵学科教授
作成日・改訂
2009年04月21日作成