水干絵具 すいひえのぐ

Suihi-enogu (Mud Pigment)

水干絵具(すいひえのぐ)は、天然の土、または胡粉や白土に染料を染め付けた微粒子の日本画絵具です。伸びがよく、艶のないマットな質感が特徴です。市販されている状態では板状のかたまりになっているものが多く、溶く前にすりつぶします。絵具そのものに接着性はなく、膠液(にかわえき)を加えることにより支持体に接着します。「泥絵具(どろえのぐ)」とも言います。

天然の水干絵具は土が原料です。中でも黄土(おうど)は、粒子の重さによって水中での沈殿速度に差があることを利用した「水簸(すいひ)」という作業で、濃口黄土、淡口黄土、さらにもっとも微粒子の上汁黄土と、異なる色調の絵具がつくられます。また黄土が酸化して赤味が強いものが朱土(しゅど)です。人工の水干絵具は、胡粉や白土に、藍などの天然染料や色鮮やかな化学染料を染め付けてつくられます。天然の土からつくられたものと、人工的に染料を染め付けてつくられたものは別物ですが、どちらも天日干しで乾燥して精製するので同じ水干として扱われています。

水干絵具は、安価な絵具で、なめらかに均一に塗れるので、主に岩絵具を塗る前の下塗りに用います。和紙の目をならし、上から塗る岩絵具の定着を良くします。重色(一度塗って乾いたらまた塗り重ねる)で複雑な色味が表現できます。また、粒子の大きさに大差がないので、混色(塗る前に絵皿の中で色を混ぜ合せる)しやすい絵具です。
水干絵具を溶くには、そのままの状態で膠液を加えると均等に混ざりにくいので、乳鉢・乳鉢で空ずりするか、少量なら二つ折りにした紙に絵具を挟んで上から筆を転がして、よくすりつぶして絵具の粒子を細かくます。絵皿に移して、膠液を加えて中指でよく練り、さらに水を加えて使用します。岩絵具に比べて被覆力が強いので、薄く溶きます。溶いた後に乾いてしまった水干絵具は、質が劣りますので使用しないようにしましょう。また、岩絵具のような膠抜きはできません。

水干絵具は、日本画の材料を取り扱う画材店で購入できます。

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参考文献
・「日本画 表現と技法」 武蔵野美術大学日本画学科研究室/編 武蔵野美術大学出版局 2002年
・「新技法シリーズ 日本画の表現技法」 石踊紘一、高嵜三朗/著 美術出版社 1978年
・「新技法シリーズ 日本画の制作」 三谷十糸子/著  美術出版社 1975年
・「人気作家に学ぶ日本画の技法 画材と技法」 同朋舎 1997年
・「花を描く」 松尾敏男/監修  日本放送出版協会 1995年
・「美術手帖 9月号」 美術出版社 2006年

参考ウェブサイト
「2002-2006年 造形ファイル」 武蔵野美術大学

監修
重政啓治 通信教育課程油絵学科教授

作成日・改訂
2009年06月20日作成

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  • 黄土黄土
  • 胡粉
  • 水干絵具を溶く手順1.二つ折りにした紙に水干絵具を挟んで、筆の軸を転がしてつぶします。
(多量溶く場合は空ずりする)手順1.二つ折りにした紙に水干絵具を挟んで、筆の軸を転がしてつぶします。 (多量溶く場合は空ずりする)
  • 手順2.つぶした水干絵具を絵皿に取り、少しずつ膠液を加えて、中指の腹を使ってよく練ります。中指の上に人さし指を乗せると、力が入って溶き下ろしやすくなります。手順2.つぶした水干絵具を絵皿に取り、少しずつ膠液を加えて、中指の腹を使ってよく練ります。中指の上に人さし指を乗せると、力が入って溶き下ろしやすくなります。
  • 手順3.練り終えたら、少しずつ水を加えて溶きのばします。手順3.練り終えたら、少しずつ水を加えて溶きのばします。

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