写真植字 しゃしんしょくじ

Photocomposition

写真植字(写植)は、文字を印刷するための版下をつくる技術の一つです。初期の印刷技術では、金属の塊に一字一字の字形を刻んだ活字を組み上げ、直接インクをのせて印字をしたり、それを原型とした鉛版を起して印刷していましたが、この方法では活字を文字の数だけ用意せねばならず、その上文字の大きさや書体を変えるためには、その分の活字も作らねばならないため、印刷の現場では膨大な活字を常時用意しておく必要がありました。この不便さを解消するために発明されたのが写真植字です。原理は、光源から出た光を文字盤に通し、その像をレンズにより拡大縮小し、印画紙やフィルムに焼き付けるというもので、写真の原理を応用したものです。物理的な活字と比べ、光による文字像を操作するため、大きさや字送り、斜体や長体などの変形が容易で、文字盤を変えれば簡単に書体を変えることができる写植は、1970、80年代には組版の主流になりました。

写植機は1910年ごろには欧米で考案されていましたが、本格的に実用化された写植機は1924年に日本の石井茂吉と森沢信夫によって作られた和文写植機でした。手動で文字の位置や字送りの量などを決めて印字していた初期の手動写植機から、後に簡単なコンピュータを利用して位置や字送りを自動的に管理する自動写植機が開発され、さらにその後、文字を小さな点の集まりとして記述、管理する方法等も開発され、現在のデジタルな組版の原理にまで発達してきました。

現在では個人がコンピュータと組版のためのアプリケーションを使って印刷物をつくる、いわゆるDTPによる組版が主流で、写植による組版は一部の印刷物に限られています。DTPではデザイナーが自分で文字を組み、それを画面上で確認しながら作業できますが、それ以前は写植のオペレーターに組版の指示をし、場合によっては仕上がった印画紙をデザイナーが切り貼りし、調整して版下を作り上げるということもありました。組版の修正が簡単にできるのがDTPの良さですが、一方でデザイナーが文字の組版についてすべて管理しなければいけないため、文字、あるいは組版の知識がデザイナーの側により一層求められているとも言えます。

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参考文献
・「レタリング・タイポグラフィー」後藤吉郎 小宮山博史 山口信博/編 武蔵野美術大学出版局 2002年
・「新しい文字組版〈電算植字〉とのつきあい方」野村保恵/著 印刷学会出版部 1991年
・「図解 印刷技術用語辞典」大日本印刷株式会社/編 日刊工業新聞社 1987年
・「編集印刷デザイン用語辞典」関善造/著 誠文堂新光社 1977年
・「レイアウトの実際 実作業に即したレイアウト技法書」宮崎健/著 美術出版社 1978年

監修
横溝健志 通信教育課程工芸工業デザイン学科教授

作成日・改訂
2009年06月06日作成