木炭 もくたん
Charcoal
木炭は、樹木の枝や幹を棒状に小割にしたものを炭化させ、デッサン用の描画材としたものです。材質が柔らかいため、繊細な調子や濃淡表現、ボカシなどの描画効果を比較的容易にもたらし、単色の色材ながら豊かな表現が可能です。
木炭の原料には、柳や桑などの枝部分、栗や樺の木、榛(はん)の木の幹を小割にしたもの、蔓草(つるくさ)の茎などがあります。これらをしっかり乾燥させ容器で密封し、窯で600℃以上で加熱することで純度の高い炭素成分の木炭となります。
それぞれ樹木の種類や焼成具合によって、硬軟や濃淡などの描画特性が大きく異なります。また同じ種類の木であっても、樹齢や生育環境などにより性質が若干異る場合もあります。木炭は鉛筆と異なり、光沢や硬度が無くもろいため、描画すると摩耗し粒子状になって描線となります。また、木炭粒子を支持体に定着させる成分を含まないため、描画した部分は非常に剥落しやすくなっています。しかし、定着が弱いことで、布や指などを使って木炭の重ね具合を微調整でき、繊細で奥深い表現が可能になります。また、木炭紙と呼ばれる専用紙を支持体にすると、紙特有の柔らかな風合いと紙肌(溝状の凹凸がある)により、木炭の定着を良くし、様々な表情を効果的に引き出せます。
木炭の使用時は、紙を傷めないように描き進めることが大切です。筆圧を抑えるクッションとして、必ず4~5枚程度の木炭紙を下に敷きます。塗り重ねる際は、一度塗った木炭を布で慣らしたり、指の腹などで軽く押さえるなどしてから(紙肌の凹部に入れ込むイメージ)、再度塗ることで濃度を上げていきます。また、描画した部分を消す時は、練りゴムや指で強く擦り過ぎると紙面の凹凸が潰れてしまうため、食パンや柔らかい布を使用しましょう。
木炭は最も古い筆記具と言え、人類がはじめて形や記号を描こうとする意思を持った時、最も手短かであったと考えられます。現在の「木炭画」と呼ばれるようなものは、14世紀中頃、西洋の製紙技術の発達とともに現れ、ダ・ヴィンチやミケランジェロが描いた作品などが現存しています。
取り扱いの注意として、柳や桑などの枝材には芯があり、芯部分は紙に定着し難く、色味も変わってしまうため、芯抜きで取り除いてから使いましょう。また、木炭は大変色が落ちやすいので、完成後はフィキサチーフなどでしっかり定着させましょう。
木炭は、一般的な画材店で購入できます。
参考文献
・「画材の博物誌」森田恒之著 中央公論美術出版
・「絵画技術全書」クルト・ヴェールテ著 美術出版社
・「絵画表現のしくみ 技法と画材の小百科」美術出版社 2000年
・「絵画材料事典」R・J・ゲッテンス・G・L・スタウト/著 森田恒之/訳 美術出版社 1999年
・「絵画の教科書」谷川渥/監 小澤基弘・渡邊晃一/編 日本文教出版 2001年
・「画材と素材の引き出し博物館」目黒美術館/編 中央公論美術出版 1995年
・「日本大百科全書」小学館 1994年
参考ウェブサイト
・株式会社 伊研
監修
堀内貞明 通信教育課程油絵学科教授
作成日・改訂
2009年04月28日作成