エングレーヴィング えんぐれーゔぃんぐ
Engraving
エングレーヴィングは、金属版を直に印刻し、描画をする直接凹版技法(直刻法)のひとつで、ビュランと呼ばれる道具を使用し、直接版面に線(イメージ)を刻み込みます。
彫刻凹版とも呼ばれることもあるこの技法は、印刷するとシャープな線が得られるのが特徴です。
エングレーヴィングは数ある凹版技法の中でも最も歴史が古く、15世紀ヨーロッパで武具や貴金属の装飾のために金属の表面を印刻する金細工職人の技術から生まれ、彼らが装飾の絵柄を記録するために印刻によってできた凹部にインクをつめてプレス機で印刷したことが始まりだと考えられています。
彫りの道具として使用されるビュランは、先端が45度に切断された鋼鉄製の刃に木製の握りがついた彫刻刀です。ビュランの鋭い刃先で彫られた版の断面はV字型となります。木製の柄の部分を手のひらで包み、親指と人差し指で刃先を軽く支え、残りの指で柄を支えるようにして持ちます。刃先は版と水平に近い角度に保ち、手のひらで押して彫り進めます。この時の力加減で、線の幅と深さを調整します。長い曲線を彫る場合は、ビュランを持った手は動かさないようにし、版を回転させることで、彫り進めます。この作業では、クッサンと呼ばれる皮製で砂の重しが入った円形の下敷きを使用すると版を回転させやすく便利です。ビュランで印刻された線の両側には多少のまくれができるためにスクレーパーで丁寧に削り取ります。そして、必要な場合はバニッシャーで磨き仕上げると良いでしょう。
印刷された描線は、ドライポイントのようなまくれによるにじみもなく、エッチングのような腐食によるくずれもない、冷たくクリアな印象になります。また、描線の始まりと終わりが鋭く細くなり、線の中になるほど太くなります。
以前は本の挿絵印刷用として版材に鋼板を用いることもありましたが(スティール・エングレーヴィング)、現在では銅板が版材として多く用いられています。また特殊なビュランを用いたスティップル・エングレーヴィングという点描による作品を作る技法も開発されました。
デューラーなどの作品にも見られるような、ハッチングによって細かい描写を行う場合には、熟練の技術を必要とします。そして印刷された画像は偽造が難しいために、現在では紙幣や証券の印刷などにこの技術が生かされています。
関連科目
参考文献
・「版画」武蔵野美術大学油絵学科版画研究室/編 武蔵野美術大学出版局 2002年
・「版画事典」室伏哲郎/著 東京書籍 1985年
・「版画 進化する技法と表現」佐川美智子/監 岡部万穂/編 文遊社 2007年
・「銅版画の技法」 菅野陽/著 美術出版社 1962年
・「銅版画のテクニック」 深澤幸雄/著 ダヴィッド社 1966年
・「銅版画のマチエール」 駒井哲郎/著 美術出版社 1992年
監修
今井庸介 通信教育課程油絵学科非常勤講師
作成日・改訂
2008年11月07日作成