アクアチント あくあちんと

Aquatint

アクアチントは、凹版画において、金属版を腐蝕させて製版する腐蝕技法(間接凹版技法)のひとつで、版面に松脂やアスファルトの粉末を撒いて加熱定着、腐蝕させることで多孔質な版面を作り出します。こうしてできた版は、エッチングでできる線の表現とは違い、面で水彩画のような濃淡の調子を表現することができます。

一般的なアクアチントの手法は、松脂を用いる方法です。松脂はあらかじめ乳鉢などで磨り潰し細かい粉末にして、ガーゼや手ぬぐいなどの布の中に包んでおきます。次に溶剤できれいに拭いた版面に、松脂の粉末が入った布包みを上下させて粉を版面に散布します。この時の作業は、風が遮られた場所で行なう必要があります。室内で行なう場合は、エアコンは切っておきます。これは、松脂の粉末が風で飛散ってしまうのを防ぐためです。松脂を均一に散布したら、版の裏からコンロなどで丁寧に熱して松脂粒子の接面部周辺を溶かし、版面に定着させます。加熱することで網状に定着した松脂は腐蝕を防ぐ防蝕剤となります。反対に、粒子間に露出した金属の部分が砂目状に腐蝕されることで、腐蝕された凹部にインクがつまり、面で濃淡を表現することができます。腐蝕は版が冷めてから、必要な調子を見ながら行い、腐蝕後松脂を落とす際には、アルコールを用いて除去します。
アクアチントは、松脂の散布量と加熱具合が最重要です。散布する量が多いと松脂が隙間なく全面を覆ってしまい、適度に腐蝕されません。加熱し過ぎた場合も、同様です。反対に加熱不足だと、腐蝕中に松脂が剥離し、版全体を平坦に腐蝕してしまいます。気をつけましょう。
松脂を散布する際には、アクアチントボックスと呼ばれるものを使用する場合もあります。アクアチントボックスは、密閉された箱の中に版を入れ、箱の下部に付けられた吹いごやファン、圧縮空気などを使用し、松脂の粉末を舞い上げることで、版面に均一に松脂を撒くことができる道具です。

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参考文献
・「版画」武蔵野美術大学油絵学科版画研究室/編 武蔵野美術大学出版局 2002年
・「版画事典」室伏哲郎/著 東京書籍 1985年
・「銅版画のテクニック」 深澤幸雄/著 ダヴィッド社 1966年
・「銅版画のマチエール」 駒井哲郎/著 美術出版社 1992年
・「事典プリンツ21」 室伏哲郎/著 プリンツ21 1997年
・「版画の技法と表現」町田市立国際版画美術館/編 1987年

監修
今井庸介 通信教育課程油絵学科非常勤講師

作成日・改訂
2008年12月18日作成